生活保護の現場から

 生活保護受給者数が約215万人(平成24年11月現在)に達し、平成23年には過去最高を更新、さらに増加傾向にある。そのため政府は、生活保護費の抑制策を盛り込んだ生活保護法改正案を国会に提出している。生活保護には不正受給などの批判が多いが、一方で最後のセーフティネットでもあり、削減すべきないとの意見も根強い。ひとくくりに、良し悪しを判断できないとは思うが、まずは現場ではどのようになっているのかを伺ってきた。



■制度の課題

 伺った先はある自治体の生活保護の担当課。開口一番、昔と今では取り巻く状況が大きく変わったと話されていた。その昔は、生活保護担当者が財政を考えることはなかったが、今や道路をつくる予算よりも多く、常に財政のことを考えなくてはならなくなっているとされていた。

 生活保護といえば、昨今では不正受給の話題が多い。私の元にも、近所に不正受給者がいるからなんとしろという連絡が入ることもある。ただ、匿名の方なのでどこいるのかも分からないので対応が難しいのが実情だ。
 このことは別の課題として、担当者は、今の現実に対応しきれていないことも課題だとされていた。例えばある高齢者に月額7万7000円を出しているが、決して高いとは言えないだろう。これ以上カットされれば生活に影響は出るはずだとされていた。一方で、夫婦と小学生低学年の子どもがいる家庭になると月額24万ぐらいになり4人世帯になると30万を超える例もある。さらに医療費はかからない。この額は、生活保護世帯の自立支援をしているスタッフのほうが安いほどだ。スタッフはしかも、非正規が多いとなればここに矛盾出てくる。これは、生活保護のスタッフを自治体が採用すると国から補助金が出るが、そこには嘱託が条件となっているからだと指摘されていた。

 そして、生活保護についての議論は、低所得の10%の人と比較して(※)高いか安いかで議論をしているが、その10%を上げるかにはなっていない。生活保護基準を下げれば、生活保護基準の半分で生活している人を助けられるのならまだ話は分かる。しかし、その具体策は出ていない。この根本的な問題は、昔から変わっていない。一番の問題は政治家だろうとされていた。

 自治体の費用負担のあり方、制度の課題もあるという。まず、地域特性によって生活保護を受ける人が多かったり少なかったりすることだという。例えば、精神障害を持つ人を対象とした病院がある場合、退院すると病院近くに住みたいと考え、生活保護を受けながら住む人が多くなってしまう。生活保護には家賃の上限があるため、家賃が高い自治体では住むところがなく、家賃の安い自治体へ移り、その自治体の負担が増えている実情があるのだそうだ。

 ※厚生労働省・社会保障審議会の生活保護基準部会の答申で示された比較。生活保護受給世帯と低所得世帯(日本の一般世帯を所得順に並べて、10個の組に分けた場合、所得が一番低い組に入る世帯)との比較したもの。
※月額金額は聞いた内容です。ケースバイケースでも異なりますので、あくまでも概算です。

 
■そもそもの課題

 生活保護になっても、自立し抜け出せば意義はあるが、そもそもに課題があることも指摘されていた。それは、そもそも就労につけるのかとの課題だ。

 例えば、生活保護を受けてからの就職先には介護や配送などケースが多いが、試用でクビになる人も多い。その理由には、時間や金銭の管理ができないなどそもその日常生活ができないことが理由になっている。このような人は、じつは、いわゆるボーダーの人であり、発達障害の人であったりすることも多いのだそうだ。就労前の課題だろう。また、今までやっていた仕事に固執し他の仕事を受け付けない例もあるという。

 制度には、就労支援には本人の同意が必要なことも課題だという。本人がすすめられた仕事に同意しない場合、結果的に仕事をしなくなってしまうのだそうだ。ハローワークなどには権限がなく強制力がないので、いつまでに働くことと指示をしても、「見つかりませんでした」で済まされてしまう。採用する側から考えれば、生活保護を受けていたような人はそもそも採用しないこともあり、そう簡単にはできないのが現実なのだそうだ。

 また、保護世帯の子どもが自立すると親が残され受給申請となり、家族を離れさせてしまう制度になっていることや生活保護制度では家賃の最高限度が決められている、例えば月額5万円の場合、実際にはもっと安く貸していたとしても生活保護の人には5万円で貸してしまうケースもあるという。このようなことが積み重なって、生活保護費を増やしていることになる。
 
 生活保護の一つ手前で生活再建を図る、いわゆる第二のセーフティネットと言われる「総合支援資金貸付制度」もあるが、これにも課題があるという。
 この制度は失業などによって生活が困窮している人に対して、月額15万円、最大で1年間の生活費を貸付する制度だが、貸付なので返す必要があり、そこまでできない人が多い。中身も、家賃に使うことができるが、家主に自治体から直接払うので、家主に失業中なのが分かってしまい使いにくい。生活保護なら取り損ねがないのでかえって家主は安心するのだそうで、この制度がかえって使いにくくなっている。本気でやるつもりがないと思ってしまうとも指摘されていた。

■現実的な解決策

 不正受給の人は行政でもつかんでいるが、その数は少数。制度の問題やメンタルな問題もあり働けない人も多いのが現実なのが、話を伺ってよく分かった。
 このようなことや制度の課題だけでなく、生活保護にはなりたくない、みっともないと思うことが生活保護にならないセーフティネットになっていたが、仕事がすぐに見つからない実情もあり、生活保護のままでもいいと思ってしまう人が増えていることも現実的な課題だ。解決策はあるのだろうか。

 例えば、体に障害がある人やメンタルな問題がある人は、そもそも一般的な就労が難しいのだから、作業所のような中間的な就労を考えてはどうか。少しでも収入が増えれば、その分、生保費用が少なくなるはずだ。期間を定めて就労することでもいい。そのような課題がなくとも、働くとその分、生活保護費が削られてしまう制度も課題だろう。働いても働かなくても所得が同じなら働く気が起きないのだ。働いた分が貯蓄になるようにすることが最も可能性があるのではないだろうか。
 今の制度でヒントになるのが、子ども・若者自立支援プログラムかもしれない、NPOへ委託して新規就労者数をを増やすことで確実に生活保護費が下がっている例があると話されていたからだ。この自立支援プログラムは、保護世帯が多い自治体で設けているが、少ない場合はケースワーカーを配置することで対応できるという。だが、そこまで予算をかけない自治体は少ないのだそうだ。 

 簡単には解決できない課題がたくさん横たわっている。解決するには、単に生活保護費を下げればいいのではないのは確かだ。対象者にはきめ細かな対応が必要だが、そこには当然、費用もかかる。簡単なことではないだろうが、その費用以上に就労してもらい、税金を払えるようにするゴールを描くことが重要ではないだろうか。許すわけでないが不正受給だけに注目していまってはならないはずだ。