最善は何か。山小屋で考えた

 この連休に南アルプスの仙丈ケ岳を登ってきた。南アルプスは周辺自治体が率先して世界自然遺産に登録しようとの運動が始まっているが、この時に泊まった山小屋の主は反対と言い切った。

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■分岐点

 仙丈ケ岳は、標高3033m。3000mを超える山としては、傾斜が緩く比較的登りやすいことから「南アルプスの女王」とも称される。しかし、訪れる人は、そう多くはない静かな山だ。その理由には、アクセスの不便さがある。例えば東京から車で行こうとすると、マイカー規制があり途中でバスに乗り換えなくてはならない。それも、バスからバスへと二回も乗り継がなくてはならず、そのバスは日に四便しかないからだ。
 
 この山小屋、それも個人経営の山小屋の主は、人が多く来ると見る間に山が荒れるのが分かる。登山道の整備に今以上に手間がかかることになり、今以上に来て欲しくない。自然遺産になり、浮かれ気分で来るような人が増えるのならなおさらだ、とその理由について話していた。
 その一方で山小屋の保守や改装にはお金がかかる。もっとお客さんに泊まって欲しいという矛盾もあるとも話していた。これは個人経営だからこその問題だろう。

IMG_9011 南アルプスには多くの山小屋があるが、公営(自治体が指定管理者制度で民間に委託している)の小屋と個人経営も含めた民営の小屋が混在しており、税金で太陽光パネルを設置したり水洗トイレに改装したりと今時の山小屋へ変わっている公営に対して、自己資金でないと改装できない民営小屋もあり、”快適度”で考えればその差は開いてきている。山小屋が単なる宿泊施設であれば、なくなろうが続けようが自己努力の問題とすればいいのだろうが、本来は緊急避難施設。なくなってしまえば登山者も困ることになる。”快適度”はどこまで必要かは別問題として、利用者が多くなることで山小屋の経営が持続可能になり、改装できる資金が増える、人が増えれば山が荒れる、自然も壊れていく。結局は、客がどこまで増えればいいのか、この分岐点が問題なのだろう。山小屋の主も矛盾しているが、と自ら話していた。

 山や自然を好きになる人はもっと増えて欲しいと思うが、そこには最低限の装備、知識が必要だ。要は程度の問題ということ。これは世界遺産にも同じことが言えるように思う。登録するなら、何で選ばれるのか、何を守らなくてはならないのかを明確にしないと観光客を増やしてお金が儲かればいいとなり、結局は観光客が訪れる目的を壊してしまわないだろうか。
 南アルプスへのアクセスが悪いことを冒頭に書いたが、これはスーパー林道を建設するさい、自然破壊を懸念する反対運動が起こり、その結果として一日、四便まで決めた経緯があるそうだ。登山者としてはもっと増やして欲しいと思ってしまうが、何のために出かけるのかを考えれば、今以上に増やすべきではない、結局、今のまままでいいじゃないか、と思ってしまった。

■最善を探す

 この7月には同じ南アルプスの北岳に登った。こちらは、バスの乗り継ぎが一回で良く、乗り合いタクシーもあることからアクセスにはまだ恵まれていることや日本で二番目に高い山ということもあり、富士山ブームで登った人が富士山の次にやってくることも多く、仙丈ケ岳に比べれば人が多い山だ。
CIMG1165 この時の天気は雨。稜線に出ると強風で吹き飛ばされそうなうえ、視界もかなり悪い状況だった。下山し山小屋で休憩していると若者集団が山小屋にやってきて山の様子を山小屋のスタッフに聞こうとしていた。その時、このスタッフは、「そんな装備で山に登るな。富士山を登ったから大丈夫と思っているかもしれないが、天候は急変する。遭難して捜索するのは我々だし、多くの人に迷惑をかける。帰りなさい」と話していた。装備を見れば、スニーカーにコンビニで買ったようなビニールの簡易カッパを着ているような状況で、いくら若くて体力があるといっても無謀と私も思ったほどだ。よくぞ言った、と思う。若者集団は、その後、登山道を通っていないようだったので諦めたようだった。きっと、へんなヤツがいたと思っているだろうが、結果としては良かったはずだ。

 サービス精神、ホスピタリティは重要だと思うが、時として行き過もある。ダメなものはダメと言い切れること。時には現状でいいじゃないかと判断することが大切だ。これは政治でも同じ。選挙になるといろいろな施設が脈略もなくできてしまうことがあるが、できないものはできないと言い切れるかが問われているのだろう。IMG_8985
 そして、守るものはなにか。言いっぱなしではなく、過不足なく、最善は何かを探し決めて形にしていくことこそ大切、と一日に四便なのでなかなかやってこない帰りのバスを待ちながら考えた。バスに乗ったら、紅葉を楽しむどころではなく、疲れで熟睡してしまったのが残念だったが。

写真は上から
・仙丈ケ岳頂上から日本一の富士山と二番目の北岳を同時に望む
・頂上からの山小屋を見る(記事の山小屋とは別)
・北岳頂上
・仙丈ケ岳の頂上にて