既存施設の福祉転用の課題

 人口減少時代となり、これまでのような経済成長が望めず税収が増えてはいかない時代だ。一方で高齢者や障がい者、子ども施設が今以上に必要ともなっている。そこで、新規に建設するのでは費用がかかり過ぎてしまうので、古くなったり使い道が変わってしまった既存施設を福祉目的に転用する方法について松田雄二お茶の水女子大学准教授から伺った。
  



 松田准教授は、建築計画学、ユニバーサルデザイン、医療・福祉施設設計を専門分野としており、視覚障がい者の歩行環境の研究や障がい者のグループホームなどの設計を行ってきており、既存施設を転用した施設も実際に設計している。また、障がい者のNPOの理事でもあり、練馬区の福祉のまちづくり条例の改定などに関わるなど自治体施策にも詳しい方だ。話は現代都市政策研究の例会で伺った。

 既存施設の転用は、駅舎を美術館にするなど欧米ではよく行われている。日本でも福祉施設は小学校区単位で設置することがよく行われているので、少子化となり空き教室が増えたことで高齢者施設へ転用するケースも出てきている。建築物には建築的な寿命(物理的な寿命)と社会的な寿命(ニーズが合わなくなる)があり、建築的な寿命がまだあるのであれば、福祉転用はもっと進めるべきだ。
 また、福祉施設が小規模で可能になり、小規模な事業者でも担えるようになってきている。使う方の身近な地域で事業ができることや住宅などを転用することで、家にいるのとの同じように、施設のなかで思い思いのことができるようにできることが既存施設を転用するメリット。
 そして、施設の効率化を考えると、均一な部屋を多く並べて大規模化することになってしまがそれでいいのだろうか。福祉施設は、まちの中に開設すべきで、大型施設では難しいとも話され、これから求められているのがこの転用だ強調されていた。

 しかし、福祉転用するには大きな課題がある。それは、法律の問題だ。建築基準法、消防法、耐震改修促進法、バリアフリー法などがあり、それまでの用途を変更するとなると対応ができなくなる例が多いのだという。上記の法律をさらに厳しくしている条例が自治体にはある場合はなおさらだそうだ。

 例えば、既存施設を保育施設に転用する場合、火事のさい、煙が回らないように間仕切りを壁だけでなく、天井の中まで作らないければならないことと定めらえれているので、簡単にはできないとされていた。また、グループホームで火災が起きると、消防法がより厳しくなり対応ができない施設が増えてしまうことも多いのだそうだ。
 
 この問題は、建築基準法で特殊建築物を定めており、一般的な建築物、住宅よりもよりも、よりしっかりつくることが求められていることが背景にあるという。自宅で過ごすような施設を作りたくても、自宅よりもより頑丈で消防法などいろいろな法律に基づいた設備をつける必要があるということだ。

 転用では、耐震基準に合っているかどうかで可否が決まると思っていたが、さらにいろいろな問題があることが話を聞いていて分かった。

 このことで、ある自治体の建築指導課の職員と話してみると、あまりにもがんじがらめで、結局は新規に作らないと対応できないケースが多い。例えば空き店舗でグループホームに転用しようとなるとスプリンクラーが必要になり、そこまでの経費がかけられずできなかったり、集合住宅を転用しようとするとバリアフリー法で規定されているスロープが設置できなかったりがあるのだそうだ。

 また、建築指導をする立場としても建築物のジャンルが細分化しているので、どう指導したらいいのか分からない課題もあるともされれていた。たとえば、小規模なグループ保育室を保育所とすれば、大型の保育園と同じ設備を付けるのか。費用面や地域に小規模な施設をたくさん作るほうがいいと考えていくと大きな矛盾があることになる。

 確かに安全な施設は必要。でも、どこまで安全にするのか、考えなくてはならない大きな問題だ。施設を所管する省庁により規制内容が変わるなど縦割りの弊害のありそうだ。今後も調べていきたい。

 転用には、さらに転用ができるとなっても周辺住民や大家さんの理解を得ることが難しいことも課題だという。よく言われるNIMBY(ニンビー・Not In My Back Yard。必要なことは分かるが。自分の裏庭にはいらない)のことだ。焼却場や保育施設でも同じようなことがよくあること。この解決も必要だろう。