憲法改正の狙い  渡辺治一橋大学名誉教授の講演から

 6月8日に武蔵野プレイスであった「自民党憲法草案を読む」と題した渡辺治一橋大学名誉教授による講演を聞いてきた(主催:むさしの憲法市民フォーラム)。現在、国会で憲法改正の発議ができる国会議員の数を三分の2から過半数にしようという動きがあるが、それだけでなく草案を読めば憲法を全面的に改正しようとしている。最大の狙いは9条だ。それはなぜか、と話されていた。



■冷戦が終わったのになぜ軍備拡張なのか 

 なぜ憲法改正の話が常にあるかと言えば、改正したいという保守勢力が続いているからだ。これは自民党ができる前からのことで、1950年代に第一の波があった。その時の考え方は、日本が講和条約を結び独立したのだから自前の軍備を持つべき。保守政治が安定していた明治時代に戻したいという思いの復古主義だった。しかし、国民の運動や社会党、共産の躍進につながり挫折した。
 次の波が90年代から今に続く波で、アメリカの軍事的秩序を守るために日本も血を流せというものだ。しかし、この時代のことをよく考えてほしいのが、冷戦が終わっているのになぜ軍備増強ということになっているかだ。
 それは、冷戦が終わったことで旧社会主義国、中国やインド、中近東の国々にアメリカなどの企業が進出できるようになり、より利益を得られる市場が増えた。しかし、国情が不安定なためにアメリカの軍隊を派兵し、血を流すこことで利益を得ている。アメリカは血を流し企業を守っているのに、アメリカの企業ならまだしも、なぜ日本の企業を守らなければならないのか。日本も派兵をすべきで、憲法9条で自衛隊を出せないのであれば改正しろというアメリカの要求が根底にある。日本の企業もより進出をしたいので、改憲して自衛隊の派遣ができるように考えている。この流れに安倍改憲がある。
 
 ではなぜ9条があることで派兵ができないのか。例えば、81年の政府答弁書では自衛のためにあるのだから、海外派兵はしないとしていたために海外には行けなかった。ところが小泉内閣の時に、解釈により海外に行けるようになった。その理由は、海外への派兵ではなく、派遣としたことだ。派兵は軍事目的、武力行使目的になる。サマーワに行ったのは、復興支援目的なのは派遣。9条の範囲を超えていないという理屈だった。これで大きな穴が空いてしまった。
 一方で派遣された場合、現地で自衛隊が攻撃されても反撃できない。現実にはオランダ軍に守ってもらっていた。そのため、自衛隊員は歯ぎしりすることになりアメリカも満足はしなかった。だから、正面から改憲しようとしたのが第一次安倍内閣だった。安倍内閣の前の小泉政権時代での憲法改正世論は賛成は65.1%、反対は22%と賛成が強かった背景もある。だが、国民の間に改憲に反対の意見が数多く出され、賛成派は少なくなっていった。その力となったのが各地にできた9条の会で、二度目の改憲の波をストップさせたことになる。

■オバマ政権で背景が変わってきた

 今は改憲の第三の波となっている。安倍首相にとっては、第一次内閣のリベンジでもある。だが、背景がこれまでと変わってきている。その大きなのものはオバマ政権が誕生しアメリカの軍事戦略が変わったことだ。イラク、アフガンの失敗で直接介入主義の戦略を見直さざるをえないことや財政がもたないこと、国内の世論の批判が大きく、軍隊の腐敗がひどいことが理由だ。そこに中国への戦略も加わっている。アメリカ企業が自由に活動できれば、アメリカの仲間としても良いとの考えになっている。現実に数多くの企業が進出しており、中国にはアメリカの国債を最も買ってもらっている。それまでは日本が買っていたが、極東における地位が変わってきていることも背景だ。
 だから日本は自ら守れとなり、2013年度の国家予算では防衛費が11年ぶりに増えたことに表れている。その中身と言えば、オスプレイの国内配備への調査費で、あれほど問題になっているのに配備するかという別問題もでてきている。
 
 一方で日本が自ら軍備を持つようになるために9条を改正するとなれば、中国は黙っていないだろう。中国が恐れているのは、9条の改正により軍隊を派遣できる軍事大国になることだからだ。アメリカも中国を刺激したくない。そうなると、日本はこれまでに行ったように、解釈を変えることで進めてしまうのだろう。集団的自衛権の問題を前面に出し、アメリカと一緒に血を流すためにどうするかと主張し国民の理解を得ようとしてくるはずだ。
 でもよく考えてほしい。たとえば尖閣の問題。ここを攻められたら守れるのかと言われるが、領土を守るのが自衛隊の仕事であり、自衛隊でできることだ。歴史上、軍事力を使って領土問題を解決した例はない。一時期は領土をとったしても長い時間がたてば取り返しにあいいつまでも続くことになるからだ。

■戦争ができる国

 今のままでは、解釈を変え実績を作ったうえで9条改憲をしていくだろう。おそらく、参議院選挙後に安保解釈を変え、シリアとイラン、中台紛争、北朝鮮など多くの紛争地域にアメリカの要請で自衛隊が行くことになるだろう。その時に大きな問題が出ている。
 そのひとつは、出かければ自衛隊員が死ぬことが起きるが、その自衛隊員を慰霊する制度はないことだ。憲法9条、20条で戦争ができない国になっているため靖国神社は公的慰霊施設ではないからだ。
 もうひとつは、NOTO軍でも問題になっていることで殺せという命令に反して殺せない、拒否する場合をどうするかだ。命令違反した場合、他の国には軍法会議を開くが日本には制度がない。日本に戻り裁判員裁判で行うことになる。殺すことで精神疾患になる兵士も少なくない。
 このような現実的なことを考えると、今の憲法を全面的に見直すことが必要になる。そこで自民党草案を読めば。靖国を公的にすることや軍法会議を設置できるように書かれてれ、さらに軍部を秘密にするために秘密保護法も書かれている。
 
 自民党の憲法草案で問題視されているものに、公的秩序を守るために戒厳令ができることや反戦運動などを制限できる規定があるが、これらは、国民を命令をするための規定だ。なぜなら命令ができなければ戦争ができないからだ。戦争する国にするにの憲法へ変えるのが真の目的だ。
 
 だが、9条も含めて改正となれば反発が大きくなると恐れている。民主党も公明党も賛成しないだろう。だから、まずは発議できる国会議員の数を三分の2から半数へとハードルを下げることから始めている。国民投票で半数の賛成を得られなければ成立しないが、それはできると判断しているのだろう。そのためには、マスコミをうまく使うことを考えている。例えば原発へ批判的な記事をかけば広告を入れないなどの圧力がかけられるように操作をしていくだろう。原発については電力会社の広告だけでなく、自動車メーカーなど製造業なども含め経済界が広告を入れないと脅しをかければできるものだ。何よも戦争を知らない国民がこれほど多い国は日本以外にはないこともあり、過半数を取れると考えているのだ。

■保守も含めた改憲運動

 一方で改憲反対勢力はどうか。社民、共産の革新勢力では圧倒的少数派だ民主党や無党派、自民党でも改憲反対派あり、幅広い勢力と連携するしかないない。全部が反対ではなく、戦争できる軍隊を作らないことなどの共通項を作り敷居を下げて運動をするべきだ。自衛隊賛成 安保賛成でもいい。戦争ができる国にすることは反対の人は多いはずだ。
 例えば野中広務氏だ。彼は、保守政治家の原点は戦争で血を流さないことだ。あの戦争はやってはいけないと発言している。他にも保守政治家に同じような考えるの人もいる。自衛官のプライドを守ることも必要だろう。自衛をするために活動してきたのであって、戦争で血を流すためではないはずだ。

 そして、幅広い国民運動にしないとこの改憲の流れは止められないだろう。安倍政権は、当初は改憲を言わなかったが、アベノミクスへの評価が高いことから本音を発言をするようになった。これは国民を甘く見ている、なめていると言える。マスコミも追随しているが、世論が大きくなればマスコミも自民党草案の問題点を書くようになる。5月3日に毎日新聞が96条反対を明言し踏み込んだような流れがもっと出てくるだろう、と最後に話されていた。

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 上記は話を聞いて概要をまとめたもの。事実関係は調べていない。渡辺名誉教授の主張で、すべて正しいとは判断できないが、興味深い指摘が数多くあった。特に話を聞いていて思ったのは、憲法改正は何が目的か。そして、日本をどのような国にしたいのかを見据えて判断すべきだということ。改正のためにルールを変更することだけを先に行うべきだない。そして、日本を戦争ができる国にすべきかで判断すべきだ。環境権など憲法には不足部分もあるとは思うが、いろいろな論点をまとめて改憲となれば、真の狙いが分からなくなる可能性もある。注意深さも必要だ。憲法は最も重いもの。なんとなくの雰囲気で改憲へと動くべきではないはずだ。