議会による行政評価の課題

 議会による予算や決算の審議をより深めることができないか? とはよく聞かれることだ。議員の力量の課題は別として、審議の手法を変えることで可能性は広がると思う。結果として、審議がより深まれば税金の支出が適正なのかどうか、より効果的な使い方、もしくは不要と判断できるはずだ。
 特に決算の審査は議会が不認定(否決)したとしても、何が変わるというものではない。法律で規定されていないため、使ってしまった税金が戻るわけでもなく、市の執行部が責任をとるわけでもないので形骸化していると指摘されることが多い。
 そこで、注目したいのが決算の審査の改革として広がりつつある議会による行政評価だ。

 行政評価は、目的を明確にしたうえで、『事業を実施した結果として、事業の目的を果たしたか、市民が満足するものであったか等を分析及び評価し、次の計画に反映させるという活動(PDCAサイクル…計画(Plan) 実行(Do) 評価(Check) 改善(Action))を取り入れ、改革していくものです。』(武蔵野市FAQ「市では「行政評価」について、具体的にどのように取り組んでいるのですか。」から)というもの。
 いくら使ったかではなく、市民の生活にどのように変わったかという成果で判断するもので、判断材料として数値を使うことが特徴だろう。○○補助金支給制度のようにひとつの事務事業の評価や、支給することでどのような施策、政策が進められたかを判断する施策評価、政策評価もある。事業仕分けも行政評価の手法ともいえる。

 議会の決算は、武蔵野市議会でも同様だが、予算者の章立てともいえる「款」ごとにで審議することが多い。
 自治体の予算は、「款」「項」「目」「節」で分類されており、款が最大の分類で、項、目、節と細分化されていく。「款」、「項」は目的別(款=民生費、項=児童福祉費など)に分類され、節は性質別(委託料・扶助費など)に区分されている。これは、財政法(地方公共団体の財政に関する法律の総称)で規定されているもので、旧会計法で予算を分類するために使われれていたものだ。
 また、目、節内の予算であれば執行部側が予算を流用することが可能だが、款と項は議会で議決が必要となっている。

 と、難し話を並べたが、ようは「款」というざっくりした範囲で審議をするので、個別の事業の良し悪し、改善点を議論することが時間的にも難しいことが実情としてある。議会として、この事業を集中的に審議しようなれば別だが、たいていは、決算委員となった議員が注目した事業についてだけが議論されているのが現実だろう。そのため、何を審議しているのかが分からなくなる審議になり、税金が適正に支出されたのか。改善点はあるのかが分からないことにることもある。

 この流れもあり事務事業や施策、政策について、議会としての評価し、さらに、次年度の予算編成に活かすようにするという取り組む議会が登場してきている。『議会改革白書2012年版』(廣瀬克哉・自治体議会改革フォーラム編)の全国調査では、29議会で行政評価(※)が実施されていた。その中から3つの自治体の報告をうけ、課題や今後について参加者と議論が7月28日、29日に開催された「市民と議員の条例づくり交流会議 2012」の第三分科会で行われたので、まとめてみた。

 

daisan

●「計画・評価と議会」 ―事業・政策・計画は議会がチェック・判断・評価する!

コーディネーター 菊地端夫 明治大学経営学部公共経営学准教授
パネラー 高柳俊哉 さいたま市議会議員
 内田勝廣 茨城県常陸大宮市議会行財政改革推進特別委員会委員長
     林定信 長岡京市市政まるごとしわけ隊!代表/長岡京市 ― 市政まるごとしわけ隊!)
コメンテーター 窪田好男 京都府立大学公共政策学部准教授

 第3分科会は、議会による予算や決算審査を改革しようと毎回続けてきた分科会。今回は、全国調査で29議会が行政評価(※)を行っていることが分かり、新たな潮流と考えられるため、議会ならではの評価ができるのか、その可能性と成果を探ることを目的のひとつとしたパネルディスカッションだった。
 パネラーは、議会による行政評価を行ったさいたま市議会の高柳俊哉市議と内田勝廣茨城県常陸大宮市議。市民による事業仕分けを実施しており、議会に対して市民とともに行政評価を行う付属機関を設置するよう提言を行っている林定信市政まるごとしわけ隊!代表。コーディネーターは、自治体の事業仕分けの研究に携わった菊地端夫明治大学准教授。コメンテーターは、国の政策評価や自治体の事務事業評価(行政評価)などを研究分野としている窪田好男京都府立大学准教授。各パネラーからの報告の後、会場参加者を含めての議論となった。

○さいたま市議会

 会派として事業仕分けを行っていたが、他の会派からの賛同を得られないことや結果が活かされにくいことから、議会として行うようにしたさいたま市議会の例を高柳市議からまず伺った。
 さいたま市議会では、決算・行政評価特別委員会を設置し5月に正副委員長を選出、単年度の決算を9月から10月にかけて審査した後、予算審査が終わった3月に行政評価を実施している。対象とするのは、総合計画の施策だ。これは、個別事務事業とすると常任委員会の所管になること、局をまたいでの評価を可能とするためだという。評価結果は、ABCのランクだけではなく改善点も指摘する。
 また、評価シートを市民にも公開し、行政、議会に加え、参考資料として市民評価も比べることを想定していることも特徴だろう。しかし、審議が平日ということあってか、参加する市民が11人と少数で、行政、議会、市民評価の三者評価となっていないこと。総合計画への評価なので、中長期的な評価となりどのように施策に反映されているが分からないことが課題としていた。

○常陸大宮市議会

 合併したことに伴い、事務事業が2000以上となったことからまとめて改革することを目的に行財政改革推進特別委員会を設置。「拡充」「現行通り」「見直し」「縮小」「廃止」の五つの結論を出す事業仕分けを実施した議会だ。市長部局でも改革を考えていたが、選挙を考えると困難なことが想定されるので、あえて議会が行うことにしたのだそうだ。合併によりここまで事務事業が増えることは当初想定ではなく、まとめて行う改革は経験がなかったことから現実はかなり厳しかった。特別委員会の委員長のなり手がなかったほどだったと内田市議は話されていた。
 手法は他市で行われた事業仕分けを視察。議会が自ら事業シートを作成し財政面、市民のためになっているかなどを評価軸に行い、改善点も示した報告書としてまとめ、予算編成に活かすように市長へ提案するというもの。事務事業自体を知らない議員もいるなかで、実際の作業はかなり大変だったが、我々がやるしかないとの思いで始めたとされていた。

○市政まるごと仕分け隊!
 
 政権交代が起こった直後に市議会議員選挙があったが、投票率は最低だった。国が変わったのに地方はどうなっているのかと林代表は思い、市政や議会へ関心を持つ。ところが、議会を傍聴したところ、現実を知り議会基本条例制定を請願。全会一致で採択となった。だが、窪田京都府立大学准教授と出会い、行政や議会にまかせっきりではなく市民が参加すべきと助言されたことや長岡京市では行政による事業仕分けは行われていたが、ぼんやりとした感想を持ち、議会が本来はやるべきではないか。しかし、議会が動かないのなら市民でやってみようと仕分け隊!が始まったとされていた。
 実際の手法は、窪田准教授の協力でゼミ生も参加。防災や観光、議会を対象にして事業仕分けを実施している。現在では年に四回の会合と提言をまとめるようにしているという。議会の仕分けのさいに議会に付属機関が必要であり。市民も参加できるようにとの提言も行っている。
 現状での課題は、行政の参加が得られてないこと。事業の説明に来てはくれるが、事業仕分けになると帰ってしまうとされていた。

○仕分けの課題

 パネラーからの報告の後、窪田准教授から現状の日本での行政評価の課題が示されていた。それは、アメリカでは行政評価は専門家が行うもので、行政職員が自ら判断することは評価ではないとされている。しかし、専門家による評価は的確ではあるが、少数の事業を対象にすることしかできない。行政による評価は、すべての事業を対象にすることができるが、自己評価なので正確さには劣るというそれぞれの課題がある。
 さらに、事業仕分けが成功するかどうかは、仕分け人の選び方と適切な事業選定ができているかにかかっていることもある。そこで、市民が関わってもいいと考えて、市民による仕分け隊にかかわるようになった、と長岡京の事例を説明。そして、市民が参加するには、政策体系を市民も知ることが大切で、分かりやすくなっているかがポイントになる。
 また、事業仕分けの課題として、直接利害関係者に説明できるかが問われている。補助金がなくなるとつぶれてしまう会社が出てくるかもしれない。選挙にも影響があるかもしれない。だから、市長も議会もできないから、事業仕分けを外部にやって欲しいとなるのだが、徐々に慣らしていくことも必要だろうと現状の一般的な課題についての説明もあった。

○議会はなぜできないか  

 これらの発言の後、会場参加者との議論となった。なかでもポイントに思えたのが、本来は決算で議会ができるはずではないか。判定は市民が行うべきではないかとの疑問だった。
 この質問に対してパネラーからは、議会が仕事をしていれば必要ない。だが、できているか。議員は関係する団体の事業になると守りや黙りこんでしまう。何百もある事務事業すべてについて、議会が着目できるだろうか。判定人は市民が行うべきだが、議会への市民参加ができていないなかで現実的には難しい。また、議会による判定の場合、会派によって判定が異なると行政がどのように受け止めていいか分からなくなる課題がある。議会としての意思としてまとめるべきだが、現状ではできていないとの課題も明らかになっていた。

○成果は

 議会が行政評価を行うや市民が関わることでどのような成果、変化があったのかの質問もあった。
「これからが正直なところ。しかし、5年前には考えられなかったこと。議会は少しずつ変わっていると思う、そこを信じるしかない」(高柳市議)、「議員はやりたくないという本音もある。しかし、やっていくと仲間は増え、議会は活性化していく。職員の意識向上にもなる。これからも取り組みたい」(内田市議)、「私たちは市民参観日と言っているが、市民が傍聴することで議会は変わるのではないか。議会基本条例を制定するさい、市民説明会を行ったが、定数削減や歳費削減はなく、もっと仕事をしてほしいとの意見ばかりだった。市民が変われば議会も変わるだろう」(林代表)というコメントだった。
 窪田准教授からは、仕分けに関わることで理屈上、仕分け人は向上していくが、まだ議論がかみ合わない人もいる。数回程度では変わらない。もっと場数は必要だ。事業仕分けをより良くするには、事業の情報を分かりやすく整備し共有化し行政、議会、市民が議論することが必要だ。このようなことができれば、行政も楽になるはずだ。そして、誰かが評価すればいいと思うのではなく、自ら政策論として議論をすべき。市民の評価を一般質問などで議会が活用することをやってはどうだろう。市民の評価を届けることも議会の仕事ではないか、との提案されていた。

○まとめ

 分科会の最後でコーディネーターの菊池准教授が、「事業仕分けにも異論はある。屋上屋になるのではないかなど批判もあるなかで、あえて実施した例から話を伺った。今すぐの評価は難しいとしても、他の自治体でも広がりがあることも考えれば、今後も注目すべきことではないか」とコメントしていたように、動き出した議会改革の実例となりそうだ。
 報告のあった3自治体で、すでに議会基本条例を制定していることを考えれば、議会基本条例の理念を活かす具体的な事例となる可能性を感じさせた分科会だった。

 
※行政評価:事業仕分けの手法を含む事務事業を含めて今回は行政評価とした

※この文は、市民と議員の条例づくり交流会議 NEWSLETTERに寄稿したものへ加筆したもの。川名は第三分科会の企画担当。