裏読みも必要 米国が考える日本の脱原発

 フリーの国際情勢解説者、田中宇さんが日本の原発政策について興味深い記事を書いている。日本では話題になっていないようだが、米国が日本に脱原発をさせたいとしているからだ。一方で原発推進を求める米国からの考えも出されている。この二つの考えの背景には何があるのだろうか。田中さんは、日本人は社会で起きている出来事の裏読みや、いわゆる謀略の存在(諜報的観点)に慣れていないことを指摘していた。



 米国が日本に脱原発をさせたいとの意向は、『日本の脱原発の意味』(2012年9月17日)の記事にある。
 
 福島の事故で日本政府が安全性を再構築しても国民の信頼を取り戻すのは不可能で、原発の全廃はやむを得ないというというアメリカでの論調が強くなっていることに加え、中露以外のBRICS(※)が脱原発を検討していることなどから脱原発は世界的な流れであり、日本にさらに原発を推進させることは「日本は核武装しようとしている」という嫌疑を国際的にかけられかねない。つまり、核武装をする以外に核燃料サイクルを含む原発政策を推進する意味がないとの指摘が書かれている。

 もうひとつの理由として、覇権の多極化があるとしている。これまで米英を中心として世界が回ってきたが、米国の力が落ちたことでBRICSが中心になろうとしてきている。この状況下で英国が金がかかりすぎることを理由に核兵器の廃止を検討しており、米国とロシア間でも核兵器削減交渉を続けているおり『国際政治の先行きに敏感な英国の中枢から見ると、今後の世界で核兵器やプルトニウムが政治力の源泉でなく、むしろお荷物になることが示唆されている』というからだ。力の落ちた米英にとっても核兵器や原発が負担になるとの考えがあるということだろう。
 
 世界の中心が米英から他の多くの国が中心になるというのが多極化については、2011年7月8日の『日本も脱原発に向かう』の記事にも書かれている。

■日本に原発が作られた理由

 この記事には、日本が原発列島になった経緯についても解説されていたので、まず確認しておきたい。
 この記事によれば、第二次大戦後、軍産複合体が「核の平和利用」、「発電」を口実として原発を推進することで核兵器の原料となるプルトニウムを作れること。核兵器の製造工程として必須なウラン濃縮の技術も維持発展できることからソ連を恒久的な敵として冷戦構造を確立し、核兵器の大量生産を続けてきた。しかし、米国の発電が原発中心になると石油輸入に頼らなくなり中東を重視しなくなる。そうなると後ろ盾がなくなるイスラエルが困る。スリーマイルの事故もあったことから、反原発運動が誘発され原発の新規着工がなくなり、石油への依存を増やすことになった。
 このことで、今度は原発産業が仕事を失うことになった。そこで、軍産複合体が『対米従属が戦後の最重要の国是である日本では、米国からの依頼(命令)であれば、活断層などあらゆる危険性を軽視して原発が増設された。対米従属の国是を推進する右派(右翼)が原発を強く推進する構図ができた』ことで日本の原発が進められてきたと指摘していることだ。

 そして、『原発産業が軍産複合体(核兵器製造業)の傘下にあり、市場原理でなく政治原理で動く分野』という指摘が最も興味深い。

『戦後の世界体制は、米英覇権型のデザインを推進する勢力と、多極型のデザインを推進する勢力との暗闘的・諜報的なせめぎ合いの中で形成されてきた』とあるように、米英中心型の世界と他国も力を持つ多極型の世界という覇権構造をめぐる暗闘が続いてきており、その中に核兵器、原発政策も含まれているという指摘だ。

『核兵器は、米英同盟のマンハッタン計画によって戦時中に開発されたが、戦後、英国の要員がソ連に核兵器の技術を漏洩させてソ連を核武装させ、米英とソ連が核兵器で対立する冷戦構造が作られた』ともあるように、どのような覇権構図にするのか。どちらの勢力が力を持つか、儲けられかの戦いということになるのだろう。

■裏読みの必要性
 
 この記事の最後はこう締めくくっていた。
『日本人の多くは、社会で起きている出来事の裏読みや、いわゆる謀略の存在(諜報的観点)に慣れていない。謀略はイスラエルやロシアの話で、日本は無縁だと思っている。しかし今、日本のいろいろな政治的出来事が、確度の高いことしか言わない優等生的なマスコミの説明で納得できない事態になっている。これはおそらく戦後日本にとっての「お上」である米国の覇権体制の崩壊が進んでいることと関係している。この状態は、今後さらにひどくなるだろう』

 最近になって米国から脱原発を懸念する見解が表明されている。米国は脱原発を求めるとの考えとは反対の考えにある。矛盾にならないだろうか。しかし、田中さんの記事を読み考えてみると、米国のなかの一方の勢力の考えと思えてしまう。

 例えば、日経BPnet の『田原総一朗の政財界「ここだけの話」』(2012年07月22日)の『シェールガスで「原発離れ」、NYでの発見と驚き』には次のように書かれている。

『米国でも今、「原発離れ」が始まっている。原油価格の高騰により、シェールガスやシェールオイルの発掘が採算に合うようになり、今後の有望なエネルギー資源として注目されているからだ。その埋蔵量は米国が使うだけなら100年分以上とも言われる。そして、それらを使った発電コストは原発よりも安いことがわかってきたのだという」。

 この状況下で原発を進めることは難しいだろう。となれば、米国の軍産複合体のこれまでの経緯を考えると、米国でさらに作れなくなったから日本の原発で儲けようと考えているのではないかと思ってしまう。つまり、米国でも脱原発を求めている勢力と否定する勢力(原発推進派=軍需産業派=米英中心派)があり、そのせめぎあいが裏では起きているのではないかということだ。

 これらは、あくまでも田中さんの記事から想像したこと。スパイ小説でも書けそうな内容だが、全てを否定できないと思う。これらの記事にはないが、原発を持つ中国の出方というワイルドカードもある。予断を許されないだろう。脱原発は単純なことではないということだ。
 でも、あれもこれも考えて、結局は何も判断しないことよりも、リスクも想定して目指すべき姿を決めておくことのほうが重要だ。それが政治の仕事でもあり、判断した理由を国民に納得してもらうことも大切だと思う。
 田中さんは『核廃絶も世界的脱原発も、多くの人々の目には、絵空事にしか見えないだろう。だが、あと2-3年もしたら、米国の衰退と覇権構造の転換が進み、いつの間にか現実的な話になっていくのでないかと私は予測している』と書いている。その時を見越して、どちらの勢力につくのか、どちらの覇権が良いのかも想定して原発は考えるべきだろうと思った。

※BRICS 経済発展が著しい ブラジル (Brazil)、ロシア (Russia)、 インド (India)、 中国 (China) に南アフリカ共和国 (South Africa)の頭文字を合わせた総称。田中さんの論調では、G20も含まれているように思える。

【参考】
田中宇の国際ニュース解説