縦割りを超えて  福祉のまちづくり条例

 練馬区で施行されている練馬区福祉のまちづくり推進条例について、担当の方から話しを伺った。福祉分野と都市計画、建設分野でバリアフリー化など目指すべき方向は同じなのに、縦割り行政の課題もあり連携ができていないことが多い。練馬区の条例は、双方の分野をまとめた総合条例となっているもので、参考になるものだった。

 練馬区福祉のまちづくり推進条例は、平成22年(2010年)10月1日から施行されている。都条例にも同様の条例があるが、そこでカバーできない小規模施設や行政などの縦割りをなくすことを考えているのが特徴だ。バリアフリー化への自治体の姿勢を明確にし、よりきめ細かくバリアフリーのまちづくりを進めやすくなるが、それでも課題は残っているという。

■全国の流れ
 
 車椅子などでも外出がしやすくするように交通機関や建物への改善を求める社会的な動きは、1970年代の初頭から仙台で始まった住民運動からとされている。それまでは、施設で暮らすことや在宅で家族が面倒をみるのが一般的で、社会に出ようにも交通機関は対応しておらず、車椅子で入れるトイレもなかった状況だった。
 このような状況を変えるようと運動が広がり、1974年に「町田市の建築物等に関する福祉環境整備要綱」が制定され、1981年が国際障害者年でもあったことから1992年に兵庫、大阪府で福祉のまちづくり条例が施行されていった。

 一方、国では、1994年に高齢者は身体障害者などが利用しやすい建築物を促進するための法律(ハートビル法)が成立。2002年の改正で、一定規模以上の建物へ義務化を行い、条例による委任規定を定めた(地方自治体が独自に強化や対象を加えることができる)。2000年には鉄道や道路へのバリアフリー化を義務付けた交通バリアフリー法が施行。2006年には、ハートビル法と交通バリアフリー法が統合され、新たなバリアフリー法となった。

 これらの流れの中で地方自治体でも条例づくりが進み、現在では全都道府県に名称は異なっても福祉のまちづくりが施行されている。練馬区のある東京都にも、当然、条例があるが、なぜ練馬区でこの条例を施行したしたの。なにがこの条例によって変わるのだろうか。

■二つをひとつにまとめた理由

 下郡山さんは、多くの自治体では、都の条例と福祉の部門による建築指導を行う条例や要綱の二つを持つ例が多い。練馬区でも同様だった。福祉のまちづくり推進条例は、バリアフリー法に基づく委任条例と地方自治法に基づく自主条例の二つの性格を持つもので、東京都の条例では対象にならない小規模な建築物や数値では定めることができないものについて配慮指針を設けることで、行政の指導が可能となりバリアフリーとなる建築物を増やすことにつながる。要綱ではなく、条例であるため、強制力も働き、建築基準法やハートビル法だけをクリアして建築されてしまうことを防ぐことにもなる。民間検査機関でおこなう建築物を行政で事前、事後のチェックができることにもなるという。

 さらに、建設部門と福祉部門の縦割りを防ぐ意味もあるという。人とのつながりは強いのが福祉。しかし、建物には関心がなく、分からない。バリアフリーの興味がない人もいて、建物に段差があると、手で持ち上げればいいでしょう、と考えてしまう福祉支援者も多いのだそうだ。
 反対に建設部門の人は建物に目がいき、人とのつながりは苦手。福祉の話になると福祉部門に行ってくれとなってしまいがち。行政でも、役所内で人事異動はあるにしても両部門に知識や興味がある注意がいく人は少ないとされていた。この条例があることで縦割り的な弊害をなくすことになるということだ。
 また、条例が二つあると目的が二つになってしまう。めざす理念が同じであれば、ひとつにしたほうがいい。二つある窓口の一本化にもなり、事業者にもメリットはあることになる。

■条例の考え方 

 条例の考え方は、都条例では、都内の建築物を同一基準としているため地域特性に合わせた規制ができない課題がある。そのため、この条例で練馬区では必要と考えていた小規模な診療所や店舗、共同住宅などへ対象を広げることで強化をすることしたもの。
 強化といっても必ずしないさいと強制するのではなく、好ましい設計にするための方針を示し、協議を行い個別の最善をめざすというものだ。バリアフリーにすることは社会的に意義があると考え建築費の半額程度の補助金を用意し、基準にあえば、適合マークが使えるようになり、区のホームページなどで広報することなど印象度を上げていくのが大まかな手法だ。いわば、罰則による“ムチ”で規制するのではなく、“アメ”でバリアフリーを進めるとの考え方だろう。東京都条例でも同様に考えられられているが、基準が厳しく進まない現状への練馬区としての改善策につながると思えた。

 具体的な例では、物販店での棚の高さやテーブルには規定がない。店の規模や業種が多様であるためできないのだが、使う側としては重要になる。窓を作っても車椅子からでは見えないので改善した例はあるとされていた。
 また、条例がふたつに分かれていると協議をしないで建ててしまう例もあるのだそうだ。業者が利用者を理解しないで機械的に作ってしまい人の導線上無理なものができてしまうことも防げるので、行政と協議する意味は大きいことになる。

■課題は残されている

 一方で課題も残されているとされていた。
 都条例では、福祉施設でいえば0平米からが対象になるので小規模施設では対応が難しい。一軒屋のような小規模施設にエレベーターが設置できるだろうか。小規模店舗にも本来は必要だが、現実的にはできないことが多い。駄菓子屋にも必要かの課題がある。老人施設にベビーベッドが必要ともなっている。この様な矛盾を区条例で緩和して、ベターなバリアフリーが進められないかと検討したができなかった。今後、議論が必要だとされていた。
 また、法律でも同様だが、既存建築物には対応ができないこと、店舗の業種が変わってしまっても規制ができないことがある。バリアフリーだったが店が飲食店になり、店内に川が流れているような店になった例が実際にあったのだそうだ。

 そして、最も課題と思えたのが、補助金があったとしても、背に腹は変えられないのだろう、実際には、和式トイレを洋式にして、杖置きもあったほうが良いと提案しても、そこまでは必要ないとされてしまうことがあり苦戦している。利用者もバリアフリーに興味は薄く、価格の安い店へと行ってしまうことも多いとされていた。
 バリアフリーを進めるには、行政や事業者だけではなく、住民の理解と支援も重要になるということだろう。

■ まちづくりセンターの重要性

 練馬まりづくりセンターと連携し公共施設でこの条例を適用する場合の住民参加、条例の普及啓発、住民や事業者の活動支援、情報共有などを行っていることが練馬区福祉のまちづくり推進条例施行の特徴でもあるが、重要な意味を持つことになるのだろう。作って終わりになるのではなく、生きた条例にする意味で重要になる取り組みと思えた。
 練馬区福祉のまちづくり推進条例が平成22年10月1日から施行されて以降、条例による認証マークが交付されたのは8件(23年6月1日公表の運用報告書により)。そう多いとは思えないが、施行後、約半年という短い期間を考えれば、いたし方がないのだろう。バリアフリーを進めていくために今後に期待ができると思えた条例だった。
 何よりも、条例によりバリアフリーを進めるという練馬区の姿勢が明確になっていると思う。
 話しを伺ったのは下郡山琢さん(練馬区福祉部障害者サービス調整担当課障害者給付係長)。「福祉のまちづくりのこれから~練馬区福祉のまちづくり推進条例の運用と課題~」と題した現代都市政策研究会の定例会でのことだった。武蔵野市でもこのような総合条例の必要性を感じている。

【参考】
練馬区福祉のまちづくり推進条例