“プロ”による自治体運営

12月に地方政府の多様化を進める議員連盟の勉強会で外山公美日本大学教授の話しを伺った。外山教授は行政学、地方自治論、公共政策論などを大学では担当し北米の地方自治制度を研究テーマにされている。
 この日の勉強会のテーマは、欧米の自治、議会制度から日本の自治制度を考えてみるというもの。最も興味深いと思えたのは、シティマネージャーのことで、いわば“プロ”による自治体運営という制度だった。

 外山教授の話のなかで興味深かったのは、アメリカの自治制度の変革だった。その中でも重要になるのがテキサス州ガルベストン市の例だと思う。

 市長権限の強弱はあるにしてもアメリカでは19世紀まで日本と同じような二元代表制を取っていたが、自治体の主要役員を首長が任命できることから票と引き換えに選挙の見返りを求める地域の“ボス”の支配や多数派が利権を得る猟官制による政治腐敗へとつながっていた。その状況下、1900年にアメリカ史上最大規模の自然災害とも呼ばれるハリケーンによる災害がガルベストン市を襲ったが、当時のガルベストン市役所が機能しなかった。そこで、自治制度を改革しようとなり、市長や議会の権限を市委員会に集中しようとなった。安全や公共事業、財政など市の行政分野ごとに責任者を決めて、選挙で選ぶ仕組みだ。この委員が言い換えれば議員ということになる。市長はこの委員から選ばれる、つまり、議院内閣制的な仕組みで、二元代表性から一元代表制という欧州で比較的多い制度になったことになる。
 しかし、委員は自分の担当部局の予算獲得を主張しあうになり予算編成が困難となってしまった。アクセルはあるばブレーキがない車とも言われたことで、直接部局を持たず総合調整機能を持たせる人物を持たせたらどうか。市を代表するのは議長(市長)で実務的な作業は別の人シティマネージャーに行わせていったとの例だ。自治体の代表は、市長なのか議会(議長)なのか、それとも、その中間なのか。それぞれ異なる自治制度が変革していった例としても興味深かった。

 このシティマネージャーは、公募により候補者が集められ議会が決めるのだが、どのような人がなるかも興味深いものだった。それは、行政の専門家であり報酬を得て仕事を行う“プロ”がなるというものだ。大学などで自治制度や行政学、法律などを学び、資格として行政経営学修士(MPA)を持つ人などが職能団体に所属する。シティマネージャーを必要とする自治体はこの団体へ連絡し、応募者を募り面接や試験などで選ぶのだという。シティマネジャーは、小さな自治体から大きな自治体へとスキルアップすることもあり、職業として成り立っているとされていた。
 この制度はまた、シティマネージャーは選んだ議会に対して責任を負うことになる。議会は市民に対して責任を負うといった役割分担が分かりやすいことも特徴といわれている。議会から方向性や具体的な政策の実行を求められるとシティ・マネージャーが財源や手法などを議会に対し示し、行うかどうかは議会が判断するという仕組みとなっている。市長と議会がそれぞれ市民からの付託をうけて、それぞれが市民のためにと行動し、同じ方向ならいいが別となると混乱が起きてしまう二元代表制の矛盾を解決することにもつながる制度ともいえるかもしれない。
 また、議員、市長とも選挙で選ばれるが、どちらも行政の知識や経験があるとは限らない。市民感覚といえば聞こえはいいが、全くの素人が権限を持つことでの混乱を防ぐことにもつながるとも言われている。
 
 アメリカではこのシティマネージャー制度を取り入れている自治体は多いとされていたが、二元代表制のままであったり、タウンミーティング型と呼ばれる住民が直接決める制度を取り入れている小規模な自治体もあるなど多様なのだそうだ。どの自治制度にするかは市民が自ら決めるという。この背景には、アメリカでは、そもそも市民が必要と考えて自治体を作るのが前提で、お上から与えられた自治とは違う考えなのだと思う。自治体がない場合もあり、その場合は公共サービスを必要とするのであれば郡や民間から買うことになるのだという。前提は日本とは異なるが、自治を考える意味では参考になる。

 アメリカだけではなく主に議会を中心として欧州の自治制度を調べてみると、日本のように市長と議会・議員をそれぞれ別に選ぶ二元代表制は少数派であることが分かる。多くの場合、議員を選出し、そのなかから議長を選び、議長が市長となり、予算などの執行権も議会にあるという制度だ。国会で首相を決めるのと同じような制度で、議会の多数派から市長が選出することになり、少数与党によるねじれがなくなり政治的には安定することにつながるものだ。イギリスでも予算編成や実際の役所業務の統括を議員が直接行うのではなく、議会が指名した職員(事務総長)行うような制度もある。
 地方政府の多様化を進める議員連盟では、どの制度が良いのかではなく、地方主権、地方分権を進めるのであれば、このような自治制度も自治ごとの選択できるようにするべきとの考えで集まった議員が中心になり運営されている。そのため、今回のような勉強会は非常に参考になるものだった。日本でシティマネージャー制度のほうが優れているとは即断できないが、自治体ごとにどのような自治が適切なのかを国が決めるのではなく、市民が自ら考えるべきではないだろうか。
 外山教授の私見として、議員が部局を任せられるような議員内閣制ができればいいが、その前の段階に行政管理官型(首長がシティマネージャーを決める)、シティマネージャーがあるのではないか。自治体で今すぐに行うにはハードルが高いが、政令指定都市の区であればできるのではないか、との指摘も考えさせられた。
 

【参考】
財団法人自治体国際化協会 アメリカのシティマネージャー制度
日本総研 日本の自治体におけるシティマネージャーの可能性