赤ちゃんポスト

熊本市慈恵病院に設置されている「赤ちゃんポスト」を視察してきた。ここに子どもを入れてしまうことで、誰の子どもかは問わず受け入れられ乳児院や養子縁組などで子どもを育ているというもの。yurikago01正式な名称は「こうのとりのゆりかご」というのだが、この「赤ちゃんポスト」のほうがインパクトが強く、世間には広く伝わっていると思う。そのことで、本来の意味が違うとらえ方になっていると思った。

「赤ちゃんポスト」には、賛否を含め多くの議論がある。視察してみてあらためて考えさせられたのは、今の社会のあり方だ。本来なら「赤ちゃんポスト」はあってはならない。しかし、現実には必要、ということだ。


 
「赤ちゃんポスト」は2007年4月から始まっている。ドイツにあった「ベビークラッペ(Babyklappe=赤ちゃんの寝床)」をモデルに、熊本市で起きていた胎児の遺棄事件をなんとか防ぎたい、赤ちゃんの命を救いたいとの蓮田太二慈恵病院理事長の思いから慈恵病院に設置されたものだ。

yurikago04「赤ちゃんポスト」自体の制度は日本にはないので、行政の許認可とは本来は関係はない。だが、ポストを設置することで施設の改装が必要となり、そのための行政(熊本市)の許可が必要となっていた。申請したのは2006年11月。その後、熊本市は国への問い合わせをしたが明確な返答がないこと。安部首相(当時)の「子どもを産むからには親として責任を持ってもらうことが大切で、そういうお子さんに対応する施設もあるし、匿名で子どもを置いていけるものを作るのには大変抵抗を感じる」(Wikipedia「赤ちゃんポスト」より引用)など当時の政権からの批判の声はあったものの明確に否定をするものはなく、厚生労働省から「直ちに違法とは言い切れない」という見解が口頭であり、「救われる命があるということは否定できない」との思いから07年4月5日に幸山政史熊本市長が医療法上の許可を行い開設となった。いわば、政治的な決断ともいえるだろう。

「赤ちゃんポスト」がスタートし、実際に子どもが入れられると賛否のさまざまな意見があった。このことにはふれないが、視察の応対をしてくださった田尻由貴子看護婦部長の「使ってほしくないけど現実がある。ポストは広がる必要はない。ここだけで十分。本来ならないほうがいいのだから」との言葉が、「赤ちゃんポスト」の意味を物語っていると思う。

 □■「赤ちゃんポスト」の概要■□
 
■システム
「赤ちゃんポスト」に赤ちゃんが預けられると、センサーが作動し、新生児室及びナースステーションの2ヶ所でブザーが鳴り、病院の助産師・看護師が駆けつけ確認、直ちに医師に連絡し健康チェックを行い保護される。ゆりかごは保育器となっておりウォーマーがつけられている。その後、警察署、児童相談所、熊本市役所などへ連絡が行われ、子どもは健康状態に問題がなければ乳児院に移されるシステムとなっている。病院では、預け入れられた赤ちゃんがその後、どのように育っているかは分からないようになっているのだそうだ。乳児院に預けられ養子縁組がおこなれることもある。

■利用状況
 平成21年11月26日にこうのとりのゆりかご検証会議による『こうのとりのゆりかご』が問いかけるもの ~こうのとりのゆりかと検証会議・最終報告~が出された。この中に、平成19年5月10日から平成21年9月30日までの約2年5か月の間の利用状況が記されている(画像参照)。主なデータを見てみよう。yurikago06

○預け入れた時間と子どもの年齢
 データから夜に預け入れているケースが多いこと。男女差はないこと。新生児生後1か月未満)が多いが生後1か月以上生後1年未満の「乳児」が6人、生後1年~小学生入学前の「幼児」が2人となっている。

○親の居住地域
 遺留品などから判明した39件について分析している。熊本県内が0件に対して、関東地方11件、近畿地方4件、中部地方6件があるなど遠方からが多いことが特徴だ。

○親の年齢と既婚率
 母親の年齢は、10代=5人、20代=21人、30代=10人、40代=3人と幅広い年代にわたっている。母親の婚姻状況は、既婚10件、未婚16件。

○出産時の状況
 医療機関で出産した事例=24件。医療機関と推測される事例=4件、自宅での出産事例=14件、車中での出産事例=1件。

○預け入れた理由
戸籍関連(戸籍に入れたくない)=8件、生活困窮=7件、不倫=5件、未婚=3件、世間体=3件、その他=4件

○障がいのある子ども
 複数の事例あり。

 □■歪んだ身内意識 我が事として真剣に考えられるか■□

 検証会議報告書では、ゆりかごの利用の状況から背景を推測しており『ゆりかごというシステムが必要となった社会的背景には、現代社会において、「核家族化」や「地域社会のつながりの希薄化が進むにつれ、血のつながった実の親や親族だけでは育児ができにくく、「子育て家庭が孤立化している状況」がある。さらに、個々人の意識に目を向ければ、ゆりかごの事例の一部には、今なお「世間体を重んずる風潮」や戸籍が汚れるといった「歪んだ身内意識」を垣間見ることができる』としている

 そしてゆりかごがもたらした影響として、妊娠や出産に悩む人たちが多く存在するにもかかわらず、現在の児童相談体制ではすべてのニーズに対応できているとは限らない現状が明らかになった。ゆりかごがマスメディアに取り上げられることによって、社会的養護の必要な子どもが多数存在することが知られ、その分野への関心が高まった。
 そして、ゆりかごが必要となった社会的背景には、子育て家庭が孤立化している状況があり、世間体や戸籍が汚れるとの査んだ身内意識を垣間見ることができ、国の社会のありょうをも映し出している。今の社会に生きる私たちが、ゆりかご利用の現実を受け止め、すべてを飲み込んでいく覚悟があるのかを、我が事として真剣に考えることを求めている。

 □■相談が必要 でも行政にはできない□■

 現場で伺い分かったことは「赤ちゃんポスト」は、子どもを預かることが目的ではなく、相談機へ結びつけるための“誘導装置”ということだ。
「赤ちゃんポスト」の入り口を見てみると分かるのだが、この中に預けてしまう前にインターフォンのボタンを押して相談をして欲しいと表示がしてあることがその象徴だろう。預ける、あるいは遺棄する前に相談をすることで他に選択肢が生まれ、子どもも親も救うことができる、との思いがこの「赤ちゃんポスト」との本来の意味であり存在意義だ。最後の最後にはこのように預ける、子どもの命を助けることできるが、その前に相談をすること、できるように導くことが本来の意味だと思った。視察に応対していただいた野口博通事務部長は「ここにきたら助かると思ってくれたら」との思いで設置されたと話されていた。yurikago03

「赤ちゃんポスト」という名称は、偶然につけられてしまったようだが、預けてしまうことだけのイメージが専攻し、安易に遺棄できる装置と考えてしまうことで本来の問題点が明確になっていないとも思った。検証の結果でも分かったことだが、実は遺棄をしてしまうような場合、相談するところを知らない、相手がいない、対策が十分でないことが明確になっていないことがそもそもの問題だからだ。
 慈恵病院では、「赤ちゃんポスト」の開設と同時に相談機能を拡充し、三名の相談員が24時間対応することにしたという。相談件数はこの二年間で述べ1000件近いと話されていた。実は多くの行政期間が相談室を設けることは多いが、時間が限定されていたり、市役所までいかないと相談ができなかったりと敷居が高くなかなか相談ができないのが実情なのだ。
 
「赤ちゃんポスト」に預け入れたれた時間を見ても分かるが、役所の相談時間(昼間)に思い悩んで子どもを遺棄してしまおうかと判断することは少ないと思う。夜の時間、ひとりで孤独な環境から思い悩んで、となってしまうのではないか。そう考えれば、相談時間の時間を限ってしまうのは相談を門前払いしてしまうものだと思う。
 この日、応対してくださった田尻看護婦長も相談を担当しており、かかってきた電話にはいつでも出られるようにと携帯電話を片時も離せない状況だと話されていた。

 □■費用はすべて病院もち■□

「あかちゃんポスト」への公費の補助はいっさいない。慈恵病院ではこの施設の維持管理に加え三人の相談員が待機しているがこの費用についての補助もない。寄付も集まっているが、相談員はボランティア。つまり、ほとんどの費用は病院が持ち出しているという。そこまでして、なぜ行っているのだろうか。

 田尻さんは、まず、子どもへの虐待に気がついて欲しい、と話す。こんなに捨てられている国はあるのか。子どもは親の持ち物との感覚になっていないだろうか。虐待を受けた子どもは、自分の子どもを虐待してしまうという連鎖もあるとの話しもあった。
 なぜ、ボランティアで続けているか。信仰が支えていることがあるが、行政の限界がそこにはあるという。相談業務の時間の問題だけではなく、相談の電話を受けると、どこに住んでいる、どのような理由など相談員がデータを聞くようになっている。
 これは行政は記録が必要になるので、情報を聞き出すことが仕事になり、相談する側から考えれば、そのようなことは話したくないとなってしまう。それに、二度目の相談でも、相手は違う相談員で同じことを一から繰り返してしまう。私たちの相談は、聞くことが中心。二回目以降の継続相談も行う。話の続きからできるし、話したくないことは話さなくていいから相談しやく問題解決になるのだと思う。相談でどこまで踏み込めるかが課題だが、最初は偽名で内容もうそばっかりだか、かかわりが深くなれば、本当のことを話すようになるのは経験から言えるとされていた。

 また、弱い人、思いがけない妊娠をした女性が相談しにくい、生活しにくい社会、偏見があることが問題。命の重さに気がつかない、妊娠したらおろせばいいとの安易な考えなどは教育と大人の責任。これらの背景には、男性の問題もある。女性だけでは子どもは生まれない。対等の責任であり、相談する相手なのに、なかには妊娠が分かったら蒸発してしまうような男性もいる。泣いているのは女性だ。
 そして、日本には養子への偏見もあるとの指摘もあった。「あかちゃんポスト」のモデルとなったドイツでは、乳児院というような施設はなく、すべて里親にださせるようになっている。子どもは家庭で育てられるべきと考えが浸透しているからだが、欧米では社会の宝というように捉えている。子どもは家のものと考え方が、日本では、家の子どもとの考えが強いので、現状では、望まない妊娠の子どもは要らない子どもになってしまう。

 ■□どうしたら命を救えるか□■

yurikago02 話を伺っていて考えたのは、生き方として、シングルで生きるか、家族で育てるべきかだけではなく、社会として育てるようになっていれば、子どもの命をもっと救えるのではないかということだ。親の都合で子どもの命が左右されてはならない。田尻さんが指摘するように、私生児や里親という言葉がなくなることや養子縁組制度の敷居を下げることも考えるべきだろうと思う。
 そしてこのようなことは、一病院がやることではなく、本来は行政の仕事ではないかとの疑問が出てくる。対応できる相談時間や対応の問題があるが、ボランティアでは限界があり身分も保証されている人が本来は対応すべきではと思うからだ。そもそも相談は何ために、誰のためにの原点に戻って考え直すべきなのだろう。

 なぜ「赤ちゃんポスト」ができたのか。時の首相も発言するなど大きな話題となったが、今の社会現象、日本がおかしくなってきていること、子育て環境全体も含めて考え直すべきだ。田尻さんが話すように「赤ちゃんポスト」はなくなるべき。でも、現実に子どもに命を救うには必要というジレンマがここにはある。

 でも、何よりも優先されるべきは子どもの命だ。親が悪いとか言っているよりも目の前の命を救うべきなのだ。そして「赤ちゃんポスト」の是非を議論するのではなく、どのように命を救えるか。歪んだ意識を変えること。「赤ちゃんポスト」に預けようと思い込んでしまわないような社会をつくることこそが大人に求められている。
 現在の熊本市では、相談窓口の拡充も行っているという。慈恵病院への相談電話がかかってくるのは全国から。「赤ちゃんポスト」の利用状況を見ても一地域に偏っているのではない。まずは全国に、今以上の相談体制が、今すぐに必要ということだ。yurikago05

「赤ちゃんポスト」、いや、こうのとりのゆりかご事業。入り口はほんの小さな扉だが、その奥は深い。日本の子ども、社会の将来もここから考えなくてはならない。

 今回の視察は、ローカルマニフェスト推進地方議員連盟の仲間、広田まゆみ北海道議、鳥越浩一苫小牧市議、三葛敦志国分寺市議、佐藤成子静岡市議と一緒に行ったもの。大西一史熊本県議にも協力していただいた。地域が異なる議員での視察は多角的な面から考えることでき有益だった。今後も続けよう。

【参考】
熊本県 「こうのとりのゆりかご」最終報告
慈恵病院 こうのとりのゆりかご

【写真】上から
・「赤ちゃんポスト」。いや、ゆりかご。持ち去りを防ぐために、一度閉めた扉は開かない。いたずらも多いという。このことも考えさせられる。
・病院の外観。慈恵病院は1898年に カトリック宣教師によって開設されている。ハンセン氏病の病床や乳児施設など弱者への支援を古くから行っている。
・報告書のデータ。
・相談を呼びかけている看板。
・病院の裏手、ひっそりした場所に「赤ちゃんポスト」はある。
・応対してくださった田尻看護婦長と野口事務部長。