図書館のアピール力

「政権交代で地域主権が一丁目一番地にあったように時代が大きく変わっている。これからの時代には、昔あったみんなでできないから助け合うという文化を作り直すべきではないか。それは、市役所がやるのではなく、図書館とスポーツクラブ、鎮守の森だ。教育や家族、地域を作り直す拠点が図書館ではないか」
 
 時代が変わるなかでの図書館。そして、行政の役目とは。このテーマで、北川正恭氏(早稲田大学大学院教授、元三重県知事)、奥山恵美子氏(仙台市長、元せんだいメディアテーク館長)、清原慶子氏(三鷹市長、元東京工科大学メディア学部教授)がパネラーとなったフォーラムがあり参加してきた。このコメントは、北川氏の基調講演にあった発言の一部だ。

 フォーラムは、2009年10月にあった第11回図書館総合展で行われたもの。武蔵野市の図書館基本計画策定委員会副委員長でもある糸賀雅児氏(慶應義塾大学教授、中央教育審議会委員)がコーディネータだ。

 フォーラム冒頭で北川氏が基調講演を行い、政権交代も含め時代が大きく変わっていく。新しい価値が今後必要になり、その中に中央集権から地域主権もある。逆明治維新と考えるべきだ。
 たとえば教育。今でも偏差値教育中心でやってきた。これが今後どうなるのか。偏差値教育以外の教育とは、家族や地域を作り直すことも含まれることになるが、その拠点が図書館ではないか。
 地域、家族 個人の自立には、情報をどうするのかだ。合理性や競争が前提ではない組織として役目があると思う。互いに築き感動する地域社会を作って国家を作り直す。その機関に図書館がなるべき、との問題提起があった。

 その次にパネリストとして、市役所職員として図書館館長になり、司書の資格を取得した奥山仙台市長から「図書館は、図書館と公民館は似ている。どちらも何でもできるが、長期斜陽産業でもあった。図書館はまちの行政に近い。情報を知らせるだけでなく運動を市民から引き出す仕掛けも必要だ。これからは、新しい価値を選択していくことを支援するとという新たな価値に図書館は踏み込むべき。市長部局は協働を進めているが、図書館は教育委員会にあるので中立にとの思いが強く自己規制していたのではないか。市民に動きをつくることがこれからの公共施設の仕事ではないか」

 清原三鷹市長からは、「今の図書館の課題は情報化の進展への対応だ。三鷹市では、図書館を情報化のなかでどのように行かすかをテーマとしてきた。インターネットの活用や自動貸し出し機など図書に主体的に出会えることが第一と考え、使いやすさを市長部局と一緒に図書館が進めてきた。
 しかし、一方で行財政改革も進めるのが市長の役目。資料費も増額はできない。そのため、全てを削ることからはじめたところ、選書力が必要になった。また、人件費も課題となるので、自動貸出機を導入しセルフ型図書館を実現した。しかも、図書館を建て替えることができないので既存館で行った。結果として、選書とレファレンスに人を集中したことになる。現在では、貸し出し数は増えている。
 図書館は効率化を進めることや自動貸出機を導入することで人を減らされるとの思いが強い。そうではなく、必要とするところに集中させることを考えるべきだ。このことを議会も含めて了解されるべきだろう。三鷹市では、図書館から地域情報や行政情報が分散しているので図書館に集中させるべきとの提案があり行っている。“協働のまちづくり”はどの市町村でも掲げている。市民自治のまちもそうだろう。しかし、その時に市民が不利なのは情報が不足していることだ。そのためにも図書館が重要であり、何よりも市民は情報を図書館に探しに行くものだ。同時に、市民が行政よりも市民が知っているのであれば行政も聞かせてもらえばいい。自治は市民だけが主役ではない。行政もパートナーに入れて欲しいと思っている」
 との現状についての発言があった。

 そして、これからの図書館はどうすべきか。行財政改革の標的になりやすい図書館、図書館員がどのように考えればいいかがテーマとなった。

 北川氏からは「これまでの価値前提ではダメ。市長や財政課が悪いのではなく情報を発信できない図書館が悪い。財政課との交渉は、談合しているだけ。どうしたら図書館が首長に振り向いてもらえるかを考えるべき。そもそも図書館は個別マネジメントができていない。中島北海道恵庭市長は、老人への補助金をカットしてこどもの図書に振り向けた。選択と集中をやらねければ自治体の意味がない。八方美人では借金だらけになる。こういう社会を誰がつくるか。チェンジするきっかけが必用であり、図書館の仕事ではないか。今は逆にチャンスだ」

 奥山市長からは「図書館員は、清く正しいだけでは打ち返されておしまい。違う分野の人がどう考えているか知るべきで、市民だけではなく経済界など図書館の応援団を増やす活動をすべきだ」
 清原市長からも「人のせいにしないで自らやるべき。三鷹では職員で変えられた。図書館も縦割りで他の分野と孤立していないだろうか。情熱は感じるがアクションはない。上の変化を待つのではなく、行動でしかない。図書館は出会いの場所、人との縁が遠いのは理由があるはず。開けていない実態がある」

 と図書館、図書館員への首長の立場からのエールとも思える発言と終了となった。

★会場は図書館関係者が多いということもあり、図書館を元気づける発言が多かったように思えたが、現状の課題をズバリと指摘しているな、と思った。時代が変わる中、変わらなければ、必要のない施設となるのが図書館ではないだろうか。貸し出しだけなら、ビデオレンタル店に頼んだほうはより効率的だと思う。暇つぶしの場所なら図書館でなくてもいいはずだ。市民に必要な情報を収集し発信できるか。新たな図書館が重要であることをいかに市民だけではなく行政のトップ、経済界など事業者にアピールできているか。待ちでなく、自ら地域へ出て行く行動が図書館、図書館員にこそ必要ということを言いたかったのだと思った。

 この図書館総合展の前、上海で北川氏に何を話すのかを聞いたところ、刺激なことをあえて言おうと思っていると話されていた。それは「図書館とスポーツクラブ、鎮守の森があれば、市役所はいらんだろう」というものだ。行政のトップから図書館の削減を言われたら、行政のほうが必要ないと言い返せ、いかに図書館のほうが協働や自治のまちには重要かをアピールしろということだとこの日のフォーラムを聞いていて思った。
 北川氏の発言は極端だとは思うが、当事者が自らを見つめなおしてアピールすることが何よりも重要なのは確かだ。プレイスの開館まで一年半。基本計画もも少しで策定となる武蔵野市の図書館。2010年は変わること、変わったことを自らアピールすることが求められるはずだ。