保育基準 地方に権限委譲 でも不安あり

 民主党は、保育園(保育所)や特別養護老人ホームなどの設置基準を地方自治体に権限を委譲し規制緩和する方向だと報道されている。住民に最も近い基礎自治体が、全国一律の基準ではなく地域特性に合わせて保育所の運営基準を設けることができるのは、考え方としては望ましいと思う。
 しかし、現状の保育基準は、目標数値ではなく最低基準としか思えないものだ。そう考えれば、基準がさらに低くなり自治体によっては質が低下する危険性をかなり含んでいると思う。
 そして、気になるのは、野党時代に民主党が出した「保育サービスについての考え方」と相反していないかだ。また、方向性は経団連の提言にも似ている。政権交代したらじつは違います、にならないか。民主党が問われている。



 民主党のこの動きにたいして、全保連(全国保育団体連合会)は、10月4日、保育所最低基準の緩和、地方条例化方針に対する「緊急要請」を行った。この要請文には次の一文がある。

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『待機している保護者は、どんな保育所でも入れればいいと思っているわけではありません。保育の質や条件が確保された施設での受入を求めているのです。それなのに諸外国と比べても劣悪な最低基準を、さらに引き下げていいのでしょうか。

 この間、保育所が増えなかったのは、最低基準が足かせになっていたからではありません。国と自治体が本気で保育所の増設に取り組んでこなかったからです。1970年代には毎年800カ所近くの保育所が増設されました。しかし近年の政権は、待機児童ゼロ作戦などを掲げながら、規制緩和策ばかりに熱心で、保育所を積極的に増やしてきませんでした。1995年から2009年までの15年間に保育所はわずか430カ所しか増えていないのです。

 保育所運営費の一般財源化など地方財政を逼迫させたうえに、保育における市町村責任をなくして企業まかせにする制度改革が準備されているとなれば、市町村が保育所整備に積極的になれないのも当然です。

 自公政権の無策が引き起こした保育所不足を理由に、子どもを狭い保育室に押し込め、保育者にたくさんの子どもの保育を押しつけるような規制緩和は絶対に認められません。』
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 ここに書かれた事実を民主党は認識しているのだろうか、との疑問がある。

 一方で2009年2月17日に(社)日本経済団体連合会は、『少子化対策についての提言 -国の最重要課題として位置づけ、財政の重点的な投入を求める-』を発表している。

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『保育サービスは、次世代育成支援の要であり、多様なニーズに対応しうるサービスの充実を早急に図る必要がある。財政の重点的な投入を通じて、まずもって、量の拡充を図るともに、従来型の行政による「措置」(行政が、域内の保育所の受け入れ能力を前提として、「保育に欠ける」児童を対象に入園先保育所を指定する方式)の仕組みから、保育を必要とする者が、必要に応じ利用したい施設・サービスを選択できる制度へと転換することが必要である。

 保育制度改革にあたり、市区町村のサービス提供義務を強化するとともに、多様なサービス提供者が参入できるよう参入規制をあらため、利用者のニーズに対応した質の高い多様なサービスを提供できる体制づくりを目指すべきである。また、地域の子育てサービスの核として保育所が発展的に活動できるようにする観点から、「保育に欠ける」要件(認可保育所の入所要件)を見直し、親の就労形態や就労有無にかかわらず利用希望者をひろく受け入れるとともに、契約を通じ、利用者と事業者が直接向き合う関係を構築していくことが求められる。この際、保護支援の必要度の高い子どもの利用が損なわれたり、サービス提供者による不適切な選別がなされない仕組みを併せ持つことは当然である』
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 とここにはある。

「保育サービスは、次世代育成支援の要」とあることはいいことなのだが、「まずもって、量の拡充」とあることは注意が必要だ。サービスを選択できることで質を高めることはできるのは確かだが、そもそも量自体が確保されていないうえ、現状の民間保育所の経営状況(公営以外、認可外も含める)を考えると、専門的な人材を継続的に雇用できる(飯を食べられる給料にする)収益構造にほとんどの保育所がなっていないことを考えれば、量を増やすには今以上に安上がりな保育所を増やすことにならないだろうか。

 民主党は、野党時代の2009年7月1日に「次の内閣 子ども・男女共同参画調査会が「保育サービスについての考え方」を公表し、次のように記載している。

『保育制度の改革にあたっては、保育の質の確保が大前提であり、国や地方公共団体は質の高い保育を十分提供するため、優先的に財源を確保すべきである。安易な規制緩和等によって質よりも量を追い求め、結果的に子どもに不利益を与えるようなことがあってはならない。また、現在国が設けている保育室の面積や保育士の人数などの最低基準についても、子どもたちに良質な保育を提供する視点で改善することが必要であると考える』

  
 保育や就学前教育への公費の支出が国内総生産に占める割合は、スウェーデンが1.47%、フランスが1.19%。日本は0.32%でしかない(2005年ベース。『10月14日付け読売新聞 【解説】保育所待機児童の解消 増設へ財源確保が急務』より)。この数字はスウェーデンとフランスが少子化問題に取り組む姿勢といえるだろう。

 先の総選挙では、予算の優先順位、組み方を根本から変える。コンクリートから人へ、としていたのが民主党だ。政権をとったら実は違いますよ、経団連と同じように経済優先にしてしまわないか(いいことはまねるべきだが)。

 待機児対策は急務だが、質を高めることも同時に考えるべきだなのだ。そのためには、予算の配分を高めることのほうが何よりも必要だ。今の情報だけで判断すると地方分権、規制緩和の名の下に質の低下につながる危険性が出ている。今後、どのようになるかは分らないが、保育所の待機児対策は、民主党そのものが問われることになる。

【参考】
毎日jp 認可保育所:規制を緩和 待機児童解消狙い--政府方針