障害者自立支援法にはいいこともある

 問題ばかりと考えていた障害者自立支援法だが、「こんなすばらしい制度はない」と評価されている方の話を伺った。悪評を山ほど聞くこの法律。私も廃止、もしくは、大幅に変更すべきと思っていたが、立場によっては良い側面もあることがお話を伺い理解できるようになった。

 とはいえ、“すばらしい”とのは、それまでは何もなかったから、がことの真相。何もなかったことのほうが、実は大きな問題なのだと思う。評価できるというのは、精神障がいを持たれている立場からの考えだ。


 話を伺ったのは、「社会福祉法人巣立ち会」理事の田尾有樹子さん。巣立ち会は、三鷹市や調布市を中心に、精神障がい者の精神病院からの退院促進や地域で暮らすためのグループホームの設立、就労支援として作業所を運営している。

 田尾さんからは、まず、日本での精神障害者の現状について説明をされていた。話を要約すると、

・精神の障がいを持たれている方々の1000人のうち3人は入院をしている。これは世界と比べてもダントツに多い。

・日本の平均退院日数が約300日。これは「退院できた人」の平均数で、多くの人は退院できないままの状態。一年以上が23万人、10年以上が8万人はいると考えられている。一度、退院するとカウントはゼロになるので、再入院を考えれば数はもっとあるはず。

・50歳代以上から高齢者が多いのが日本の特徴。通常の病気で1年以上以上入院することは多くないことを考えれば、おかしな状況にある。

・精神病床と住居施設割合は、アメリカは半々だが、日本はほとんどが病床しかない。

・入院患者数は横ばいだが、外来患者数は急増している。なかでもうつ病にかかる人は、15人に一人といわれている。疾患のなかで最も多いのが精神障害だが、実態が知られていない。

 そして、障害者自立支援法の評価については、これまでサービスがある程度、届いていて既得権がある方々からは負担が増えると批判はあるが、これまでサービスが届いていなかった精神障がい者にもサービスが届くようになったこと。費用負担が補助から義務的給付になったこと。新しいサービスができるようになったことなどを考えると自立支援法は評価できるというものだった。

 巣立ち会は、退院促進事業に力を入れているが、それは、田尾さん自身がソシャールワーカーとして病院に勤めていたさい、長期入院がどれほど人権侵害を行っているかを実感してきたことがきっかけだ。

 例えば、入院されている方々は“社会的入院”の方が多く、なかには、入院しながら仕事をして自分で稼いでいるのに退院ができない人もいた。退院できるのは「棺箱(がんばこ)退院」、つまり、死亡して棺おけに入ってでしか退院ができないとまで言われていた。病室は鉄格子で囲まれた、夜はベッドにベルトで締め付けられる。食事のさいは、箸が凶器になるので持たされない。首を吊るかもしれないので部屋にカーテンもない。日々の生活は毎日が同じように規則的に行われ、薬も強制的に飲まされていたことを見てきたのだそうだ。

 そして、このような人からの入院費で自分が生活していることにおかしいと思い始めたが、若い頃には声を上げられず、行政に期待していた。しかし、国も都も市も変わらなかったので、なんとか退院ができないか。アパート借りれるようにすることができないかと考えて巣立ち会の活動が始まった。

 なぜ退院が進まないかだが、何よりも治っていないのに退院をさせされないという医師の思いが強いこと。家族が受け入れを拒むこと。さらには、入院させていたほうが病院の経営的にもいいという側面もあるのだという。

 そのため、自らアパートを捜し、生活をできるようにして退院をさせるように活動を始めたのだそうだ。

 すると、すぐに医者のいうことは嘘っぱちだったことが分ったという。生活はなんとかできるようになるし、退院した人たちは、戻りたいという人は誰もいない。それは、自由があるから、と話されていた。

 実際に生活をしていても大きなトラブルはないのだそうだ。寝タバコによる火災はあったそうだが、それは、タバコを吸う人であれば誰にでも可能性はあるはずだ。アパートを借りるのも大変そうに思えるが、巣立ち会で一括して借りることで空き部屋のリスクがなくなることなどから大家さんも好意的なのだそうだ。

 一般的には貸したくないと思う大家さんが多いと思うが、このことについても興味深い話があった。それは、古くから土地に住んでいる大家さん、いわゆる昔の地主さんのほうが貸してくれることが多いというのだ。きっと、昔から精神に障がいを持っているような人はいて、ある程度の人口になれば一定の比率でいることは当然と肌で感じているからではないか。それが地域社会だと思っているからではないかとの田尾さんは話されていたが、そういう一面もあるのかもしれない。

 しかし、アパートを借りて生活できる場所を確保しても前途は多難だ。障がいがあることから就職は難しいため作業所も作る必用があること。そのために経営が困難になるが、行政からの支援はない。自立支援法によって、やっと得られるようになったと話されていた。
 田尾さんは、応益負担に批判は多く悪い制度だとは思う。既得権を持っている人は、料金を払うことになるが、サービスがまったくなかった人には前進になっている。このような側面をもっと知ってほしいと終始話されていた。

★田尾さんが、普通に暮らしている人にはわからないだろうが、決められた時間で、しかも、10年以上も夢も希望も見出せないで暮らしていると、何もできない人、何も努力しない人となってしまう。それが現実。精神障害者は何もできないと評価されているが、全てを治して退院するのは無理にしても、退院することや毎日の生活で目標を持つことによって変わること。初期の治療をしっかりすれば大丈夫な人がたくさんいる、との言葉は心に強く残っている。

 巣立ち会が行っているように、生活できる場所があれば、じつはこのような人権侵害とも思われるような入院生活はなくなるのかもしれない。少しでも良くしていくこと。それは、自治体の仕事でもあり政治の仕事だ。