米軍再編とその狙い

米軍再編とその狙いについて、ピースデポ特別顧問梅林宏道さんのお話を伺ってきました。
自衛隊によるミサイル防衛の意味、憲法の改正、今後の日米や東北アジアの平和をどうすれば構築できるのかなどたいへん興味深く参考になる内容でした。政権の選択は、平和をどう考えるかの選択肢であるのかもしれません。


梅林さんのお話は、9月23日に開催されたむさしの憲法市民フォーラムの総会に先立ちが行われ記念講演でのもの。

以下に概略をまとめてみます。

 [米軍再編 その狙いとは]

□米軍トランスフォーメーション

今、トランスフォーメーションと話せば分かりやすいと思うが、ちょうどサナギから蝶にに昆虫が姿を変えようとするのと同じように、日米同盟、軍事協力が変化しようとしており、そこには、影の力が働いている。と現状についての解説から始まったのが梅林さんの講演でした。

米軍は、地球的な規模で米軍のトランスフォーメーション(再編)を行っているが、このことは、2001年9月に発表されたQDR(※1)で明らかになっていたことで、よく見るとブッシュ政権が始めたのではなくクリントン政権から論理構築と準備が始まっていたことが分かる、と話され、再編には、短期的と長期的の二つの動因があると解説されていました。

 ○短期的な動因
  対テロ。弾道ミサイル。大量破壊兵器。潜水艦の脅威。サイバー戦争。宇宙戦争(衛星)など。

 ○長期的な動員
  米軍のトランスフォーメーション(97年QDR。冷戦後10年がたち対ロシアから変わった)。21世紀型驚異への準備、露、中への警戒。陸・海・空・海兵の統合化

そして、ポイントとして、この二つの動因はいかにアメリカを強化するかで考えられていること。記憶いただきたいのは、再編の流れにより新しい形の軍隊が必要とされていることだ。

アメリカの軍隊は、陸軍、海軍、空軍、さらに海兵隊もあるがそれぞれに伝統や社会的部分を持っているため、そのまま体制では21世紀型脅威には対応できない。
そのため、四軍をいつでも、それぞれの技術を捨てないで、どんな小さな行動でも一緒に行動できるようにがトランスフォーメーション、米軍再編を行っている。現在では訓練を行い、組織も戦争の仕方を変えることを実施しており、その流れを30年かけて行おうとしている。

この流れのなかで9.11が起こり短期的に急いで対テロ戦争も関わることになった。
戦争が始まると世論、予算も全てが戦争のためになる。そのため、対テロ戦争を再編のために使うようになったのだ。

イラクやアフガンの戦争の形がそれで、再編の実験の場であり、実験を含む戦争が行われているということになる。

これには、海外の米兵の数を変えようとの考もある。
かつては、敗戦国など占領した国に基地を維持していたが、その形は古いとQDRで批判され、新たな形にしようとしている。
その形とは、大きく言うと、できるだけ多くの部隊を米国本国に戻そうとの考え方だ。本国に戻したほうが、いざというときの展開がしやすいこと。兵士が家族と一緒に過ごせることで志願兵を得られることも重要な理由となっている。そのため世界的な再編をしているともいえる。
 

米軍の再編には、次の5原則がある(「合衆国の国防戦略」2005年3月)

1.同盟国の役割を強化する
2.不確実性と戦うための柔軟性を高める
3.地域内のみならず地域を越えた関心を高める
4.迅速に展開する能力を発展させる
5.数ではなく能力を重視する

そして、「蓮の葉戦略」(世界中が連携し戦争ができるシステム)に基づき海外の基地を次の三つの概念の基地に再編しようとしている。
この考え方は、基地を減らし、大中小の概念的なメリハリを付けることで、小であれば、家族施設(劇場や図書館、フィットネスクラブなど)は必要なく維持しやすくなることも考えられているという。

その三つの概念は下記

主要作戦基地(MOB=Main Operaing Bases)
前進作戦地(FOS=Forward Operating Sites)
安保協力地点(CSL=Cooperative Security Location)

これらについて梅林さんは、再編原則の1は、当たり前だが、同盟国に踏み絵を踏ませすことになる。
アメリカの新しい戦略に同意するかどうか。テロと戦うのかどうか、と突きつけ、アメリカと運命共同体になることを同盟国に約束させることになる。そのさい、約束することが国の利益になる、と考えさせる手法を取っている。
 
2の不確実性と戦うための柔軟性を高めることは、戦争が起きている地域で戦うのではなく、グローバルに戦うための手法であり、地域を越えて戦うことになる。沖縄も含めて大きな作戦エリアになる可能性もある。

韓国ではこの再編についての議論が公然と行われ、それまで在韓米軍は朝鮮半島の有事のためとされてきたが、そうではないことが明らかになったほどだ。

しかし、日本ではそうならなかった。それは、9条がたちはばかるからだ、と話されていました。

この流れのなかで、日本の米軍基地の再編も進められており、陸軍の再編がキャンプ座間にも影響しており原子力空母が横須賀に来るのも同じ理由だ。

そして、この戦略の変化が自衛隊にも影響を与えているのだそうです。

 □自衛隊のトランスフォーメーション□

 自衛隊は、2004年12月、新「防衛計画大綱」(平成17年度以降に係る防衛計画の大綱)を定めましたが、この内容について梅林さんは、滑稽なくらいアメリカの文書の翻訳でできている、と指摘していました。

 この大綱には、防衛力の役割が次のように記されています。

(1) 新たな脅威や多様な事態への実効的な対応
 ア 弾道ミサイル攻撃への対応
イ ゲリラや特殊部隊による攻撃等への対応
ウ 島嶼部に対する侵略への対応
エ 周辺海空域の警戒監視及び領空侵犯対処や武装工作船等への対応
オ 大規模・特殊災害等への対応 
(2) 本格的な侵略事態への備え
(3) 国際的な安全保障環境の改善のための主体的・積極的な取組

梅林さんは、これらは、米軍にあわせるためのもの。冷戦が終わったのにも変わらず、自衛隊はロシアが日本上陸をするシナリオで考えられていたが、アメリカにせっつかれて衣替えしたことになる。
これはまた、対侵攻重装備から対テロ特殊部隊への変更であり、戦車を減らし対テロ特殊部隊への転換となっていると話されていました。

また、06年に統合幕僚会議を廃止し統合幕僚監部が発足し、調整会議から指令ができる組織となったことや07年3月に陸上自衛隊に中央即応集団(※2)を新設したこと、防衛省へ昇格など米軍の再編と轍をひとつにしているともしていました。

 □日米戦略協調
 
3年かけて日米は戦略協議を行い、3点セットで重要文書が合意しています。

1.日米共同声明:共通の戦略目標(05年2.19)~共通の戦略目標
2.日米同盟の転換と再編(05年10.29)~協力と役割り分担
3.実施ロードマップ(06年5.1)

このなかで梅林さんは、一番目が最も重要ではないか、とされていました。

何を共通の戦略目標にするのか。自衛隊は何をするのか。どの基地をどうさせるのか。これらが重要になる。グローバルな脅威への対処を筆頭に掲げており、対処はアメリカだけがするのか。それは、日本にとっても脅威であるはず、と迫られる踏み絵になった、と解説されていました。

そして、2から、「日本の防衛と周辺事態」と「国際的な役割り」に分類が行われたが、この中に新たな脅威や多様な事態への対応を含むとあり、これが本音だろう。グローバルな脅威への対応が一貫した問題意識となっている、とも指摘されていました。

こららのことから、すでに在日米海軍と海上自衛隊の両横須賀基地のように日米連携の強化が進められているように日米防衛協力は新次元となっている。

例えば、米軍の第一軍団前方指令部と陸上自衛隊の中央即応集団(※2)の司令部が2012年度までにキャンプ座間に移転することが決定されていること。
横田基地へ航空自衛隊航空総隊司令部(府中市)が移転し米軍と自衛隊の「共同統合作戦調整センター」を設置する予定などあらゆるレベルでの司令部の統合が進められている、としていました。

これらの計画の中に、ミサイル防衛(MD)の共同体制があるが、これもよく考えないとならない、と指摘されていました。

 □ミサイル防衛と日米同盟の実相 

日本では、北朝鮮による弾道ミサイルを日本の安全保障の脅威とみなし『日本版弾道ミサイル防衛システム(BMD)』を導入し2007年から運用を開始しています。
このシステムには、アメリカの協力が不可欠であることから航空総隊司令部が横田基地に移転し日米共同の作戦センターを設置する理由ともなっています。
しかし、アメリカは、アメリカ本土防衛を本命としている、梅林さんは指摘されていました。
 
このことは、2006年7月5日に北朝鮮がミサイルの発射実験を行ったさい、ピースデポが米海軍内部文書を調査したところ、横須賀に配備されているミサイル防衛のイージス艦がXバンドレーダーが配備された車力基地(※3)を挟んで松前半島(北海道)西岸から久慈海岸(岩手県)へとほぼ直線上に位置されていたことが判明した。

この配置は、北朝鮮のミサイルがハワイに向かうことを想定していたことになり、米本土防衛のためのミサイル防衛であることを裏付けている。米軍が横須賀を母港としながら米本土の防衛任務を行うことは、新たな性質のものであり、日米安保条約には規定されていない。

このことは、国際法の支配の観点から正面から議論されなければならない、法が及ばないことは、シビリアン・コントロールとなっていないことになるからだ、と大きな問題点を指揮され、日本の防衛システムは、アメリカのミサイル発射情報がないとミサイルを打ち落とせないのが現状であり、戦略的従属性となっていることも指摘されていました。

そして、これらのことから、日本の在日米軍基地はアメリカ本土防衛のための基地であり、日本の防衛システムはたんなる利用価値の高い武器貿易の顧客でしかないのかもしれない、との疑問が出てきてしまいます。

 □バードン・シェアリングからパワー・シェアリングへ

2000年10月、日米同盟強化策を盛り込んだアーミテージ報告(アメリカ国防大学戦略研究所の特別報告「合衆国と日本 成熟したパートナーシップに向けての前進」)が発表されました。

米軍と自衛隊との協力や自衛隊の海外派兵拡大などが盛り込まれていましたが、そのなかでも集団的自衛を日本が禁止していることが日米同盟の制約となっている。この制約を除去することによって、より緊密で効率の高い防衛協力が可能になるであろう。

これは、日本国民だけがなしうる決定である、とされており、バードン・シェアリング(負担の共有)からパワー・シェアリング(力の共有)に進化、として、日本は金だけではなく軍事力も担う必要があると記載されています。

また、当時のクリントン政権による中国シフトから日本シフトへと変更を示すもので、翌年に誕生したブッシュ政権が採用。小泉内閣によるイラクへの自衛隊派遣へとつながることになったとされているなど、日本に大きな影響を及ぼしている報告といえます。

アメリカでは、近く大統領選挙が行われ、新たな大統領が誕生し、政権担当政党が変わるかもしれません。日本の軍事的役割への考え方が変わるについて、梅林さんは、この報告について、米国の次の政権が民主党、共和党のどちらになるのしても、超党派の政策スタッフが関わり作られたものであり、対日政策は変わらないだろうとしていました。
 
今後のアメリカが日本に求めてくることとして、2007年12月に発表された第二次アーミテージ報告の次の項目がポイントだ、とされていました。

・憲法に関する論争は、憲法の制約が日米同盟の強化に限界を与えているという認識を踏まえていることに勇気づけられ、これを歓迎する

・自衛隊の海外派遣は特措法ではなく恒久法で行うという議論を歓迎する

・日本の軍事予算はDGP比で世界134位であり、少なすぎる

・自衛隊は海外での人質救出作戦を今でもやれるはずなのに計画、訓練をやってない

・武器輸出禁止の解除をミサイル防衛に限定せずに拡大する。科学技術予算を防衛技術研究開発費に使えるようにする。ミサイル防衛の特別予算枠を作るなどを考えるべきである

・次世代イージス・ミサイル巡洋艦(CGX)の日米共同開発を目指すことによって、ミサイル防衛協力を拡大することができる

・日米防衛産業の協力の実現を目指すべきである。そのために、機密保護のための包括的な協定を早急に作ることが必要になる

・早期警戒、諜報分野における日米協力を強化するために宇宙の安全保障利用に日本が関心を示し、国会で議論しようとしていることを歓迎する

梅林さんは、今後の課題として、アメリカのグローバル戦略にのるのるか。憲法9条のグローバルな価値にのるのか、大きな選択が必要になると話されていました。

それは、強調的な安全保障に向かうのか否かだ。
敵を軍事的に凌駕することが安保の基本だが、それは敵の軍事力もエスカレーションすることになる。
そうではなく、日本の安全保障によって中国も北朝鮮も安心する、敵も安心する考え方、強調的な安全保障を考えるべきだろう。

例えば、日本、韓国、北朝鮮を非核地帯にして東北アジア非核兵器地帯を確立することだ。まるごしに核を向けさせないことで、北朝鮮は核を気にしないですみ、アメリカの核の傘が必要なくなるはずだ。
このことにより米軍の価値が減っていく。だんだんとアメリカがいる説明がつかなくなるプロセスの出発点になる、と考えているとの持論も展開されていました。

そして、米軍の再編が進むことは、今のままでは約束したことを実行しろという日本への圧力になり、9条を変える圧力になってくる。
これを跳ね返すには日本の政府を変えなくてはならない。この風向きが出てくればアメリカの出方も変わってくるはずだ、と話されていました。

■平和は誰もが望むこと、とは思いますが、そのアプローチをどうするのか。重要な選択が近く行われるのかかもしれません。
断片的に伝わってくる米軍や自衛隊の報道の意味することが、おぼろげながらですが分かったように思えた講演でした。

※1 QDR(Quadrennial Defense Review)
 米国防長官による「4年ごとの国防戦略見直し」。基本戦略から兵力、装備体系など具体的な軍事力に至るまで、今後20年の長期的視点から検討し、議会に報告。日本の安全保障政策にも大きな影響力を持つ。1997年、2001年と過去2回報告された。米中枢同時テロ直後に激変した安全保障環境を十分反映したQDRは今回が初めて。

※2中央即応集団
 防衛計画の大綱では、ゲリラや特殊部隊による攻撃や大規模災害などの新たな脅威に対応できる高い機動性を備えた部隊とされており、PKO(国連平和維持活動)も部隊の組織となる。在日米軍再編が整う2012年には、日米陸軍司令部があるキャンプ座間に移設される予定。梅林さんの著書『「北朝鮮の脅威」と集団的自衛権』(高文研)では、海外での軍事行動を担う特殊部隊と指摘されている。

※3車力基地
 青森県つがる市にある航空自衛隊三沢基地の分屯基地。2006年からアメリカ軍の弾道ミサイル早期警戒レーダー、Xバンドレーダーが設置されている。

【参考】
溜池通信 INSS 特別レポート(アーミテージ報告の翻訳)

法学館憲法研究所 アーミテージ・リポート改訂版(英語版PDF)」

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